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「王家に捧ぐ歌」(2)そんなのおかしいよ。


さて、キムシン作品ですが、「王家」は9・11まんまですよね?あの阿呆な歌詞でアーティストとか古代エジプトに生まれたら詩人とかギャグですか?とか、ていうかあなた語りすぎですよプログラムで、とひたすら突っ込んでおりました。初演当時。

なんというか「神の名の下の戦争とはいったいなんなのだ」というあの問いかけの、なんとも言えない安っぽさとうすっぺらさに脱力するとともに、こんなセンスのない歌詞しか書けない脚本家が自分を詩人と称するとはいったいこれはどういうことなのだ、とプログラムのキムシン風に懐疑してみました(大きなお世話)

あのうすっぺらさは、なんていうか…神様の言うことは正しい。自分らの言ってることは正しい。オレら正義だぜ!だから正義じゃないヤツはやっつけてしまえ、責めていい、攻めてしまえ。だってオレの言ってることあってるでしょ?キムシン先生はそれをいかんと言っています。

でも、アイーダは同じことをやってるんですよ。自分だけが正義だと。そしてアイーダは、自分が戦を引き起こしたにもかかわらず、ぬけぬけと最後まで「戦いは新たな戦いを生むだけなのよ!」と言い立てる。アイーダは「戦いは新たな戦いを生むだけ」教の教祖です。そして、教祖様は、たとえご自身のエゴによる行動でもうひとつ戦が起こったとしても、「戦いは新たな戦いを生むだけなのよ」と説教して歌って言ってりゃいいのです。だって教祖様の仰ることはいつでもどこでも正しいんですから。だって教祖様が仰るとおり戦いは虚しいものだったでしょう?だから戦争はやめるべきなんですよ。

え、でもその戦争の原因の一端って教祖様じゃあ?教祖様がテロを誘発したからじゃ?なんで教祖さまは親に向かって説教してるんですか?なんで戦争の一端を担う本人が、まるで自分は何も悪くないみたいなツラ構えでえっらそーに説教なさってるんですか?

やー、そんなことないですよ。教祖様はいつだって正しくていらっしゃるのです。だって、教祖様の仰る教えは真実ですから。

かくて、「戦いは新たな戦いを生むだけ」教は浸透していくのでした。

…意地悪く見るとそういう話じゃない?

宗教というのはそーゆーモンです。一方の正義は、一方にとってははた迷惑。だけど、じゃあ、その「一方の正義」に真実がまるでない、ということではないのです。むしろ、どちらも真実だからこそ、取り返しのつかないような争いごとになるわけです。自分が真実だと信じているものを貫き通すために、相手をやっつけなければ、自分が信じているものを通せない。それを「迷惑な」というのは簡単です。愚かだ、というのも簡単です。でもそんな簡単に迷惑だ愚かだと言えますか?

神様はなんのためにいるのですか?どうして人は神様を求めるのですか?

「神の名のもとに戦争するなんて愚かだ」そのとおりです。でも、人はなぜ神様を欲しがるのですか?神様を心に持った人々が地球上にたくさんいるのはどうしてですか?

神様は戦争するための理由にもなりますが、決してそれだけではありません。
神様を理由にして戦争をする⇒宗教ってなんなんだと思うのは、自分のなかに神様がいないからですね。神様がいないから、神様の理由を必要とする。
自分のなかに神様を持っている人は、神様がいる理由なんか要らないのです。だって、そこに神様はいるのですから。神様を疑う理由なんかないでしょう?

たったひとつの真実を持っていること、それを貫き通そうとする強い心、それはよくもあり、悪くもなります。ひとつのことがよくもなり悪くもなる。でも、本人のとってはよいものでしかありえない。でも一方にとっては悪いものになってしまう。

簡単なことではないのだと思うのですよ。
そんな、「オレは神のお告げを受けた、だからあの男を殺す」的な端的な台詞で、神の名の下の殺人を表現できるわけではないのです。それって、「そんなのおかしい、どうかしてる」と思ってるところから来る表現ですよね。でも、どうしてその人にとってそれが真実なのか、その人のことを考えてはいませんよね?

わからないかもしれない。神様を心に抱いていなければ、理解できないかもしれない。でも、理解できないから「そんなのおかしい」と思うだけでは、あいつはオレと同じものを信じてないから間違ってるんだと思うのと同じじゃないですか。私たちはもっと、相手の立場に立って考えなくては、相手のことは分からないのです。

や、なんかおかしな方向に飛んでしまいました。そーじゃなくて「王家」のハナシ。

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