« 高野和明「十三階段」 | Main | マイトガイン再放送感想 »

野沢尚作品雑感(でも長い…)

書いてなかった分(書きかけ含む)をいっぱい上げている今日です。
野沢尚読書週間となっております。6月に亡くなられた方です。追悼ということで本屋さんに『深紅』がおいてあってそこから読んだのですが、これが一番好きかも。
というわけでこの稿はネタバレを含みますのでご注意下さい。って勝手に言っても…すいません。しかもすんげー容赦ないですな書いてみたら…うわあ。

主人公奏子ちゃんの彼氏の渡辺くんが出来すぎだと意地悪にも思いましたが(爆)氏の書くヒロインは結構突っ走り系が多いのでしょうか?見守る男性が気弱っていうのは(いや渡辺くんはそんな気弱でもない)『破線のマリス』も同じかも、と勝手に思いました。
『深紅』は非常に構成が上手いなあと思います。いかにもテレビドラマな感じはしますが(文章がシナリオっぽいというか、いかにも映像映えするというか)、ヒロインのトラウマ、「四時間」と作中で称されるそれ、がクライマックスで非常にうまく生かされていると思います。でも、出口があるようで壊れそうな、なんとも微妙なエンディングですね。女性が状況の差異はあれ視野狭窄とも表現していいほどの突っ走り系なのに対して(奏子にそういう言い方をするのは酷だとは思いますが勿論)、気の弱い善人の男性が、そんな女性を否定もせずに寄り添っているという型があるように思いました。そして作家の主観は女性の側にあるのだろうなあ、と何作か読んで勝手に思った次第です。

で、視野狭窄を極めるのは『破線のマリス』のヒロイン。
この人の怖いところは、報道のありかたとして教わったものが、現実に彼女がやってることを見るとぜんぜん身についてないところですね。

報道に必要なもの、5W1HのほかのふたつのF。FOR WHOMとFOR WHAT、誰のためになんのために。それを彼女は勇気と想像力に置き換える。誰のためになんのために、という理念は夫から教わり、勇気と想像力という言葉は息子から教わる。

と、何回言えば気が済むんだってくらい繰り返すんですが、じゃあなんのためなの?誰のためなの?っていう意義は、彼女は何も語らないんですよ。そして「勇気と想像力を持って」と言いながら、彼女には己の過失を認め引き返す勇気も、相手の立場を思いやる想像力も備わっていない。まるで欠落したようにそういうものを持っていない。でもお題目のように、からっぽの「勇気と想像力」という言葉を唱える。人から教わった、なにも身に付いていない言葉を、単語だけ並べる。なにもない、空っぽなヒロインです。
彼女は事実になんか興味がないと言い切り、自分の妄想を固めるために現実をねじ曲げようとして、客観的な事実を嫌い、自分の思い込みが、客観的事実に即してみたらただの間違いだと判った最後に至っても、それは私にとっては真実だったと言い切る。

じゃあなんで客観的事実に興味がないのかっていうと、そこには自分が入る余地がないからだと思います。彼女は最後まで、自分を見てくれ、と言っていたのだと思います。だって、自分が殺人を犯して、最後に自己検証ビデオを作って、「それでも皆さん、私を疑ってください」って言うんだもん。ものすごい自己主張。スタッフの撮ってきた映像を切り貼りするのが仕事だった彼女が、最後に自分自身を切り取る。彼女の最後の自己検証ビデオは、表面の思いはともかく結局は彼女自身を皆に見て欲しくて作ったものなのだと、私は思いました。

彼女の「FOR WHAT」と「FOR WHOM」はなんだったのか…自分のため、だったのだと思います。そんな彼女は、根拠のない自分の思い込みが正しいのだと確かめるために一歩も二歩も、いや十歩くらい踏み外す勇気はあったけど、自分の過失に気づいて途中で引き返す勇気は欠片も持っていなかった。自分が間違っていない可能性を捏造する想像力はいくらでもあったけど、他人の立場を思いやって、はたまた己を振り返る想像力はなかった。だって全部自分のためだけにやってるから。
そんな彼女が踏み外し自滅したのはある意味必然ではないかと容赦のないことを思いますが、『破線のマリス』の続編たる『砦なき者』では、彼女の後輩だった赤松は踏み外さない。おおざっぱに言ってどこに差があったのか。赤松も仕事的にはヤバい橋は渡ったけど、彼は自分のためにやっていたわけではなかったから、だと思います。そんなおおざっぱに括ってもなんですが。

|

« 高野和明「十三階段」 | Main | マイトガイン再放送感想 »

「読んだ本」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/38645/1358542

Listed below are links to weblogs that reference 野沢尚作品雑感(でも長い…):

« 高野和明「十三階段」 | Main | マイトガイン再放送感想 »